経済システムは、大きく公共メカニズム、市場メカニズム、共同体メカニズムの3つのメカニズムの相互作用で働いていると考えられます。共助・互助による共同体メカニズムは、発展途上国が経済成長をする段階で比較的に重要性を失っていく傾向がありますが、高所得国で少子高齢化が進むと、再び共同体メカニズムの重要性が増していくと考えられます。これは、人口の大きい割合を占めるようになっていく高齢者の認知能力が正常な加齢の過程で低下し、場合によっては認知症を発症する高齢者も多いと予測されるからです。また少子高齢化に対応する女性の社会参画のために、保育サービスの重要性が増すことになります。子どもや認知能力が大きく低下した高齢者は一人では市場メカニズムを有効に使えないこと、また少子高齢化で政府財政赤字の問題が深刻化し税徴収などの権力に基づく公共メカニズムには限界があることが予測されます。さらに経済発展の度合いに関わらず、地震、津波、感染症などの大災害の際には共同体メカニズムが重要であります。現代経済学では市場メカニズムや公共メカニズムの研究が主流ですが、行動経済学という新しい経済学では社会的選好やソーシャル・キャピタル(信頼など)の共同体メカニズムの研究に資する多くの研究がなされてきました。 このような状況に鑑み、共同体メカニズム研究センター(Community Mechanism Research Center)の目的は、特に子どもや認知能力が低下した高齢者のように一人では市場メカニズムを有効に使えない人々も含めて全ての人々の生活が、より良く生きることができて安全になり、かつ摩擦や対立が軽減されることに資することです。この目的のため、センターは共同体メカニズムを研究するための理論・実証・政策研究および研究のためのデータ収集において中心的役割を担っていきます。国内外の研究者や他機関と連携しながら、行動経済学や学際的な共同体メカニズムの研究を推進するとともに、その研究成果に基づいて家族などの2人以上の共同体から人類共同体までのさまざまな共同体内で影響力を持っているという意味でのリーダーたちに提言を行ってまいります。この提言は公共セクターへの政策提言を含みますが、それに限定されるわけではありません。例えば夫婦共同体の夫や妻、非営利団体の職員を、SDGsに貢献することに興味のある営利企業の社長や従業員の方々に検討していただきたい提言も行ってまいります。