慶應義塾大学塾内研究費等助成金による研究
主な研究活動
2020年3月末まで、以下の研究を遂行しています。
「行動経済学による共同体メカニズムの研究:保育と教育の実証と理論研究」
これまでの研究進捗状況
本研究は、行動経済学会第13回大会の一般報告とポスターセッションでの報告(報告予稿)など、さまざまな学会やワークショップで報告され、得られたコメントを基に慶應義塾大学経済研究所のディスカッション・ペーパーとして投稿し、さらに学術誌に投稿するための改訂がほぼ完成している段階である。
これまでの研究結果
多くの人々は保育業務を委託するときに、入札や公募という市場メカニズムに基づく仕組みが公平性と経済効率性のために必要である、あるいは有効であると考えたり表明したりされている。本研究の目的は、保育には保育士ら保育園の職員と、園児と、保護者の間での信頼、利他性、応報性に基づく共同体メカニズムが重要であることに注目しつつ、(1)入札や公募は本当に公平性と効率性のために必要であるか、(2)もし必要ではない場合、どのような条件の下で、必要ではなかったり、むしろ弊害となりうる場合もありえるか、(3)委託側はどのように行動すべきか、という3点を主たるリサーチクエスチョンとして、大学や病院での保育業務の委託をケースとして調査研究を進めてきた。
調査研究にあたり、実証研究の方法として聞き取り調査による質的な分析アプローチを採用した。先行研究によると委託契約の更改の際に共同体メカニズムの崩壊と急激な保育の質の低下が起こり、多くの園児たちが被害者となる可能性がある。実証研究と、経済学の理論分析により、
(1)入札や公募は本当に公平性と効率性のために必要ではない場合もある。つまり「入札や公募が公平性と効率性のために常に必要である」という考えは誤認である。(2)共同体メカニズムが強く働いているという条件の下では、むしろ入札や公募が弊害となりうる場合もありえる。つまり誤認により共同体を破壊してしまう可能性がある。(3)委託側(大学や病院)は、共同体メカニズムがよく働いており保育委託契約の終了時に監査や保育の質の評価で問題が生じていない場合は、入札や公募ではなく契約更改を,問題が生じている場合は委託先が改善策を講じることを原則とし,緊急に契約終了をすべきであるような重大な問題が生じている場合のみ入札や公募を行なうことが望ましいかどうかを慎重に検討すべきである。保育における共同体が十分に働いているにも関わらずどうしても入札や公募を行う場合には、保育共同体を破壊しないために、保育園の職員たちの継続雇用と待遇維持を受託する法人に要求し、営利企業が受託する場合は、将来的に買収が起こり、受託企業との信頼関係が維持できない事態も考慮する必要がある。